君が泣いている夢を見た。

 ボクが『どうしたの?』と尋ねると君は一瞬、ビクリとしてから、『あんたに泣いている姿を見られたから悔しいの!』と強がりを言う。

 強がりなのは知っているけど、ここでもそんな言葉を口にしなくても良いのに。
 だって君はボクがここに来る前から泣いていたじゃないか。
 もしかしてボクが君のミスを庇ったりしたから、それが君を傷つけたかもしれないかな?なんて気にして様子を見に来たのだけど、相変わらず本心を君はボクに口にしない。

『それは答えになっていないよ?』

 少しがっかりしながらそんな言葉を口にしたボクの気持ちに、君は気づいたのだろうか。

『だって、弱っている私の姿をあんたには見られたくないから』

 びっくりした。
 君がそんな言葉を口にするなんて思わなかったから。
 てっきり『放っておいて!』とか『あっちに行ってよ!デリカシーってもんがないのよ!あんたには!』とか、そんな言葉が返ってくるだろうと身構えていたから、思わず本音の含まれていそうなその強がりがたまらなく嬉しかった。

 そして、そんな君がどうしようもなくかわいらしく思えて、それと同じくらい愛おしく感じた。

 ああ。その小さくうずくまった体を抱きしめてあげたい。

 そう思ったけれど、そんな事をすれば君の心がまたボクから離れてしまうだろうから、何かを探しているように、さ迷っているその指先を両手に包みこんでいた。

 君のその指先は信じられないくらい…。

『…冷たいね』

 素直な感想だった。

 ここはそんなに寒くないのに、君の手がこんなに冷たいのは何故だろう。
 しかも、心なしかその指が震えているように感じた。

 何か怖いことでもあるのだろうか。
 何か不安を抱いているのだろうか。
 何か…辛い事でもあったのだろうか。

 ああ。ボクは君に畏怖を感じさせる物、全てから守りたい。
 君の全てを受け入れて、守りたい。

 君のその強がりな性格も、優しさも、そして…弱さも全てを包み込んで守っていきたい。

━━… だからボクに君の心を見せても良いんだよ。

『大丈夫だから…』

【全てをボクに委ねてみないか?】

 そう言ってしまいたかったけど、そんな事を口にすれば君の心がまたボクから遠ざかるだろうから、そうとだけ告げ、そして、ボクは夢から目覚め、ボクを見つめているボンゴレの姿を確認して、自分が現実の世界にいる事を確認した。

「オハヨー。ボンゴレ。朝の散歩に出かけようか…」
「ワンッ!」

 ボンゴレが元気に返事をしたので、ボクは手早くジャージに着替え、その時、思わずつぶやいた。

「アレが夢じゃなければよかったのに…」

 カーテンを開け、ベランダ越しに空を見る。
 どこまでも晴れ渡る空のその青さが…
 目に染みた。

 そしてボクは「じゃあ。行こうか」とボンゴレに告げると、朝のジョギングに出かけた。







 小春日和と呼ぶにふさわしい、とても気持ちの良い陽気だが、それでも殺人事件は起きるのだ。

 ボクは事件現場にあえて行き、昨日、ひどく落ち込んでいた(多分、ボクが不用意に庇ってしまったせいもあるんだろうし)君が気になったので、その姿を探した。
 そして相変わらず君は、『サクサクサクサクサクサク…』と、良い音を立てながらかりんとうを食べていた。

「あ。刑事クン、オハヨー。今日も良い天気なのに殺人事件の捜査なんて本当に気が滅入るよね」

 ボクがいつものようにそう声をかけると、君は『ギギギ』とでも音を立てそうな動きでボクを振り返る。
 その様子に夢と現実とのギャップを思い知らされてボクは少し落胆した。

 そして少し会話をしてから君は
「もちろんですよ!!こ…こんなジャラジャラしたおふざけ…け…検事さんに自分の失敗を庇ってもらったのかと思ったら、名誉挽回するために、いつまでも落ち込んでなんていられませんよ!!」
 と、少し焦っているのか噛み気味に変な日本語を口にして、またもや『ギギギ』と音を立てそうな様子でボクに背を向けると、左右の手足を同時に出しながらロボットのように現場へと向かっていった。

 その姿が少し滑稽に見えたけど、ボクはその背中にそっと、『うん。もう大丈夫みたいだね』とつぶやいた。




夢のサキ…

2011.10.UP




あとがき

 はい。相変わらずタイトルを考えるのが苦手なので、テーマだけで話を書き進めてタイトルは、まのに任せます。
 そのため今からタイトルが楽しみです。

 本当は茜だけのお話でした。
 しかし、茜の話を書き進めていくうちに、響也の話も出来ました。
 茜のお話のテーマは『恋心に気付いた瞬間』です。
 そして響也のお話のテーマは『愛し方を改める瞬間』です。

 職場の女の子たちと話していた時の、『泣いてる時には泣き止むまで、彼氏に黙って抱きしめていてほしい。でも、不安を感じたり、恐怖心を抱いている時は手を握りしめて、一言『大丈夫』って言って貰いたい』という言葉がこのお話のヒントになりました。

 それにしても久しぶりに書いたら、文章がメタメタです。
(職業が理系なので尚更です)。

悠梛 翼




←Back|夢のアト…→

△TOP