※ネタバレがあります。
 未クリア&未プレイの方はご注意下さい。




「今日、ぼくがここに来たのは、成歩堂さんに用事があってなんだけど…」

 成歩堂なんでも事務所の扉を開け、『成歩堂さんは居ますか?』と、事務所に声をかけた瞬間、みぬきが矢の如く走り寄って来て、『ガリューさん!』と、荒っぽい声を上げれば、次にはこちらを、攻めるような目で睨みつけてきた。

 女の子に見つめられるのは慣れているのだが、こういう恨みがましい目で見つめられるのは、
 初めての事なので、正直、戸惑いを隠せない。
 そう、付き合っていた女性との別れ話ですら、こんな目で見つめられた事はなく─彼は円満解決の術を、天然で習得していた─、そのためどうして彼女が、こんな目で自分を見つめているのか理解できずに、なんとも言えない表情になった。

 その表情のまま、事務所を見回すと、成歩堂はソファに腰掛け、今時間に再放送されている法廷物のドラマを、欠伸を噛み殺しながら観ていた。

 そしてもう一人、この事務所の期待の星、王泥喜 法介は、この三人の妙な雰囲気に圧倒されながら、どうしたものかとオロオロし、響也と視線が合うと、ハッと我に返り、傍らに居た成歩堂に、「牙琉検事が…」と声をかけた。

「うん。知ってる」

 言われた成歩堂から、素っ気無い返事が返ってくるが、響也も内心で、『そりゃ、この距離で気がつかないわけはないだろうな…』と呟いた。

「……あと、20分」

 脈略もなくそんな言葉を吐いた成歩堂に、「は?」と、答えたのは法介だった。

「このドラマ、後20分で終るんだ。
 だからその間に、みぬきの用件を終らせといてくれる?」

 響也には背を向ける形でテレビを見ながら、成歩堂がのらりくらりとした口調で告げると、響也は、みぬきへと視線を戻した。

「…え〜と、おじょうちゃんは…何をそんなに怒ってるのかな?
 ぼく、君に何かしただろうか…」
「これですよ!コレ!どういうことか説明してください!!」

 みぬきは手にしていた、飾り気のない赤い携帯電話のディスプレイを響也に突きつける。
 年頃の女の子が持つには、機種の色が赤い以外、本当に飾り気も味気もない携帯だ。

 響也はそんな感想を抱きつつも、彼女が突きつけてきたディスプレイに表示されている文面を読み上げた。

「只今、サーバーが大変混み合っております。
 もう少し時間を置いてから、接続してください。…ってなってるけど…」
「ええ!?なんですか?サーバーって…っていうか、王泥喜さん!!
 この携帯、役に立ちませんよ!!」
「あ!コラ!!オレの携帯で勝手にインターネットやらないでよ!!
 パケ放題入ってないんだから!!」

 法介が自分の携帯を摩り替えられ、もといスラれ、勝手にインターネットをやられていた事に猛抗議をした上で、成歩堂へ『携帯買ってあげてくださいよ!』という、非難の視線を送ったが、彼はそれを無視して、「あっはっはっはっは…」と、笑っている。

 念のために、テレビの画面を確認したが、真犯人が法廷で自供を始めるシーンで、どこからどう見ても笑いを誘うような場面ではない。

─…絶対ワザとだ…。

 法介が実感した瞬間、彼のトレードマークである二本の触覚─正確には前髪─が、垂れ下がる。

 その漫才のような様子を眺めつつ、この飾り気のない、どこにでもありふれた携帯は、法介の物かと、響也は要らない知識を入手した上で、彼女がネットで何を見ていたのかについて考え出す。

 そして一つだけ、思い当たった節があった。

「…もしかしてこの間、ガリューウェーブのHP上で、ぼくが発表した事に対して怒ってるのかな?」

 一応、メンバー同志では話し合い、マネージャーには内緒の上で、響也が数日前のブログに書き記したのだ。

─…ガリューウェーブは、諸事情により、解散する運びとなりました。

 そう書いたが最後、レコード会社やスタッフはもちろん、親類達からも『どういう事か?』という問い合わせが殺到した。

 そして何より、ファン達からの『どうして!?』、『やめないで!!』などの、事務所やHPへの問い合わせ、果ては、サイトや大衆向けの大型掲示板への書き込みで、それこそ祭りのようになっており、『響也が勝手な事書いた所為で、サーバーダウンしたって、プロバイダーからも苦情が来てるよ!!』と、マネージャーが泣きついてきた始末だ。

 しかも自分の執務室へやってくる人間も、「検事、あれ。本当なんですか?」と、その都度たずねてくる始末。
 唯一、茜だけが、「ふ〜ん。辞めるの」と、素っ気無くもあっけない感想を述べただけだ。
 ただ、その言葉の裏に「本当に辞めれるの?」という言葉が隠されていると感じたが、あえて、「うん」とだけ答え肯定した。




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