昔か今かも定かではありませんが、とある時代に、 『ガリュー王国』という、大きいような、小さいような、 それでいて権力だけは一人前にある国がありました。

その国には、眉目秀麗という言葉が相応しい王子が二人おりましたが、 長子がなにやらとんでもない罪を犯し、王位継承権を剥奪され、国を追いやられてしまったために、 王位に元々関係がなく、興味もなかった、次男の王子がイヤイヤながらその権利を持つこととなりました。

その王子の名前は、『響也』といい、今日も今日とて、イヤイヤながらも、 執務をキッチリこなし、大量に積み上げられた写真は一枚たりとも見ることなく、
「これ、燃やしといて」
 と、自分付(専用とも言う)のメイドに、袋へ詰めて渡しました。

それは御年24歳の、王子の見合い写真です。

響也はイヤイヤとは言いつつも、王位継承者です。
次のガリュー王国国王になる人なのです。
両親も兄の事があり、痛い目はもう見たくない。
とばかりに、やたらと見合いを勧めます。
しかし、響也王子は、そのどの写真にも目を通さず、その誰とも会おうとはしません。
なぜなら王子には既に、心に決めた相手が居るからです。

「ねえ。これを燃やしておいて。
 って言ってるんだから、ちゃんと返事をしておくれよ」

響也は自分の部屋を、さくさくと、怒りの篭った調子でかりんとうを噛み締めながら、 掃除をしている、自分のメイドにそう声をかけました。
しかし、メイドは一向に、返事をしようとはしません。
主の声掛けに応じないメイド。
ある意味、漢らしいメイドです。

「ぼくが話かけてるんだよ。
 命令だから、返事をしなさい、茜」
「さくさくさくさくさく」

「絶対返事などするものか!」とばかりに、彼女は一気に三つほど、 かりんとうを口に入れ、それを怒りと共に噛み締めています。
そして響也は、その茜の態度に少しむっとすると、彼女へ向けて、こう言いました。

「まさか昨日、寝かせてあげなかった事を、そんなに怒っているのかい?」
「─────!!」

茜はその言葉に、瞬時に反応すると、持っていたモップの柄を響也へ突きつけると共に、 口の中に入っていたかりんとうを飲み込んでから、こう返しました。

「王子!!卑猥な表現をしないでください!!」
「まさか、今日もやりたいのかい?
 昨日は優しくしてあげたからね。
 今日のぼくは、厳しいよ」
「だからにこやかに、卑猥な表現すんなっての!!
 単に徹夜でチェスをしていただけでしょうが!!」

茜がグイグイと、モップの柄を響也王子の頬に押付けます。
しかし響也王子は、なんとも嬉しそうな表情です。

「アンタね。
 ここ一週間、チェスで人を寝かさずに居るくせに、私に命令するってどういうことよ!!」

それは彼専用のメイドなのだから、仕方がない話なのですが、 この強気なメイドには、そんな常識は通用しないようです。

「なんか、チェス以外の理由で、寝かせないなら良い、みたいな言い方だよね」
「私は眠い!!って言ってるの!!
 どんな理由であろうとも、今日は王子に付き合う気はありませんから!!」

ちょっと顔を赤らめて、そう猛抗議をしてきた彼女を、微笑みながら見つめつつ、 「じゃあ、いいよ」と、言いました。

「ただしこれから先、二人きりで居る時は、茜が"響也"って、ぼくの事を呼んでくれるなら…」

そこで、茜は息を飲み込むと、更に顔を真っ赤にします。

「………分かったわよ。
 コレ燃やしてくるわよ!!徹夜チェスにだって付き合ってやるんだから!!
 だから王子の事なんて、呼び捨てになんかしませんからね!!」

茜はそう言うと、半べそをかきながら、見合い写真の詰まった袋を持って、響也の部屋を出て行きました。
その彼女が居なくなり、静けさを取り戻した部屋で、響也は一人、溜息をつきました。

「……ベッドの上でなら“響也”って、呼んでくれるのにね」

そう呟いた彼の元に、またもや大量に、写真が持ち込まれました。
どうやら王子とメイドの恋には、何かと波乱がありそうです。




つづく…かどうかは不明。




ガリュー王国物語(仮)〜逆裁4お伽話〜

2007.08.19


あとがき

個人で楽しんでもらうために、書いた話…。だったのですが…。
テーマは、王子と命令と、メイドと呼び捨て、ほんのりエロチシズム。です。

響也に「茜」呼びさせるのが、こんなに恥かしい事とは、思いませんでした。
(カミナリで一回呼ばせたきりですから。
常に呼び捨ては初めてで…)

悠梛 翼

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